2009-05-02
女性が9.11以前に、その事務所で活動していたのだとすれば、賃貸借契約書があるはずだが、それがない。仮にそれがなくても、取引先との連絡記録があったり、電話設置の記録あったり、電力会社との契約があったり、机を買ったときの店の記録があったり、引っ越しのための運送会社の記録があったり、何かしら痕跡があるはず。それが番組で示されなかったのはなぜなのか?
しかも、番組が入手したとかいう「一本のビデオテープ」は、9.11より後のもので、肝心の事務所内部の様子が写し出されていない。粉塵を被ったというビルに入って行く女性の姿と、ビルから出て来た女性が、取材陣に内部の報告をしている姿が映ってるだけ。つまり、ビルの中に本当に女性の事務所があって、彼女の所持品などがそこに存在したのかすらわからない。この映像だけで、ビル管理人がウソの証言をしたと決めつけることができるのだろうか?
これで真実が「次々と明らかとなった」のと言われても、首をかしげるほかはない。むしろ、取材の結果、無実を裏付ける証拠はあまり出てこなかったけれど、ビルの管理人に電話してみたり、担当弁護士にインタビューしてみたら、結局は有罪を裏付ける証言や意見だけが出て来てしまったというたというのが私の感想だった。
それで気になって、引渡がなされた2005年当時の新聞記事を調べてみると(信濃毎日2005/10/14)、どうも、引渡の理由となった容疑は3つほどあったようなのだ。確かに一つは、この取り下げられたローン申請に関するものだが、残りの2つは、援助団体と赤十字から小切手を詐取した容疑だった。
また、記事によれば、女性とともに、同じ容疑で無職の男性もアメリカに引き渡されている。しかし、この「無職の男性」についても、番組で取り上げられることはなかった。なぜ、番組ではこの重要人物についての説明がないのか? この「無職の男性」と、勝手に高額ローン申請をしたとされる弁護士が同一人物なのか否かもよくわからない。
いずれにせよ、この記事のとおりだとすれば、ローン申請を一つ取り下げようが、その一つが無実だろうが、ほかの2つについて有罪を示す証拠があれば、アメリカの検察は起訴したろうし、日本側も引渡を認めたろうし、アメリカの弁護士たちも司法取引を強く勧めたことだろう。
もちろん、その2つの容疑についても、いい加減な審理がされた可能性は否定できないけれど、番組がその点に全く触れなかったのはなぜ?
番組が描いたストーリーは、外国人によるテロ便乗犯罪に偏見をもつと思われるビル管理人の証言を唯一の証拠に、司法関係者たちは揃いも揃って、申請が取り下げられたという明白な事実を無視し、彼女の訴えに全く耳を貸さなかったというもの。だから日本の法務省や裁判所はデタラメだとか、アメリカの司法は9.11以降おかしくなったとか言うのだけれど、このケースをもとにしてそう言われても、何だかピンと来ない。
問題点を浮かび上がらせるために、単純でわかりやすいストーリーを視聴者に示すことも重要だろうとは思う。問題を解決するために、あいつらが悪いと金切り声を上げることも、ときには必要なのだろう。しかし、「あなたたち、大事なことを視聴者に隠してませんか?」というのが私の感想だ。
この種の話題で、最近、番組出演者が口にする常套句は「日本でも間もなく裁判員制度が始まりますから・・・」というものだが、いやいや、そういう今だからこそ、こういう番組づくりをしてはいけないのでは?
自分の主張に都合のよい証拠だけを集め、それに反する証拠や事情は全部切り捨ててしまい、アイツらが悪いと言い立てる。この番組がとった態度こそが、「えん罪の温床」なのでは?
この番組には、こんなタイトルが付いていた。
特集 シリーズ 「言論は大丈夫か」17
『 誰のための司法か 』 - 「日米条約」 と 「日本の司法」 -
ちなみに、その前週の放送(特集 シリーズ 「言論は大丈夫か」16)を紹介するHPには、なかなかいいことが書いてあった。
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